甘い血 (1)

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 恋の話、恋の話か。じゃあ、とっておきのを語ってあげよう。
 森の魔女の話は知っているよね。魔女の体には呪われた血が流れていて、何百年も昔から同じ姿のまま、森の奥深くで暮らしているという。そして、悪いことをする子供のところには魔女がやってきて、森に攫っていって食べてしまうという。ただのお伽噺だと思ってる? 違うんだなあ……。
 魔女は確かに、森の中の自分の小屋に外の世界の子供達を集めていた。でも、食べるためじゃない。親に捨てられた子供を拾ってきて、育てて、外の世界に返すためなんだ。
 昔、このあたりでは度々不思議な力を持った女の子が生まれることがあった。たいてい、まだ小さいときにその力は暴発して、周囲に惨事を引き起こす。だから、少しでも力の片鱗を見せた女の子は、呪われた子として森の縁に捨てられるのが常だった。
 魔女はそうやって捨てられた子を拾ってきて、自分の所で十年間、力を制御する方法を教え育てた。そうして、成長した子をこっそりと外の世界に返していたんだ。

 この話の主人公も、そんな女の子だった。彼女の名前はオリアナ。まだ小さい頃に親に捨てられたのを魔女に拾われて、森での暮らしもあとひと月で十年になる。長い年月を森の中だけで過ごして、外の世界がいかに広いかを魔女から繰り返し聞かされて、殆どの女の子達は外の世界に旅立つ日を心待ちにする。でも、オリアナは違った。
 なぜかって? それは彼女が恋をしていたからさ。誰に? それはね……。


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