無限螺旋 - 巡る世界(5)

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 唐突に、虚空に浮かぶ歯車のイメージが意識を支配した。回転する、車輪。

「まったく、兄弟愛とは斯くも美しいものなのか! 斯くも力強いものなのかッ!! 妾の目に狂いはなかった。そなたらを選んで正解だったぞ。愛も呪いも同じ心の力だ。それは何者にも歪めることのできぬ、人の運命すら捻じ曲げるほどの力!
 その力を限界まで引き出し、可憐で儚く残酷な結末に昇華することこそ妾の喜びッ! 我が芸術ッ!! そなたらはその絆の深さ故に、斯様な結末に至らざるを得なかったのだ……くっくくくくくくくくくくく、ひーッひひひひひひひひひきひひひひひひひひひひひひひひ、ひゃっははははははははははははあははははははははははーーーーーーーーーーーーッ!!」

 悪意の嘲笑は巨大な歯車の回転に巻き取られ、組み込まれて形を失っていく。
 兄への思慕と嫉妬。魔女の計略。両親。契約。対価。勝利。敗北。生と死。世界。
 すべてがつながる。すべてが回る。無数の、一つの、車輪。

「……だまれ、腐れ外道が」
「……あぁ?」

 俺の中の車輪に突き動かされるように、手が勝手にそれを握り、放った。
 それは、きゅん、と微かな音を立てて、魔女の眉間に吸い込まれるように突き立った。

「!!……」
「なるほど、確かに魔女には効果てきめんだな。見事に命中した」

 それは柄に細かい装飾がされた細身の剣――『真実』の意味を持つという、破邪の剣だ。
 俺は、痛む胸を押さえながら、しかし精一杯の虚勢を張って立ち上がった。口から生ぬるい液体が少しこぼれ、それを唾と一緒に吐き捨てる。

「……なんだ、と。そなた、さっき確かに胸に……」
「ああ、喰らったよ。さすが俺の兄貴だ、寸分違わず急所を狙ってきた。おかげでへし折れてしまったみたいだが」

 首に掛けた紐を引っ張り、――根元から折れてしまった短剣を取り出した。

「コレのせいでほんのわずか、急所を逸れたらしい。ついでに貴様の呪いとやらも消えたようだぞ。さっき、身体から嫌なものが抜け出る感覚があった……兄の記憶は取り返した」

 そのまま紐を引きちぎり、壊れた短剣を魔女の足元に放り捨てる。そして、取り落とした剣をおもむろに拾った。

「ハッ! これは偶然か? それともまさか、計算していたとでも言うのか? そなたのような木偶の坊がッ!!」
「計算なんかじゃあない……さっき貴様は言ったな? 心の力は運命をも捻じ曲げると。それは違う。貴様は、固い意志の、運命の前に敗北したんだ……ッ!!」

 剣で無造作に横に薙いだ。まるで藁の束でも刈るかのようにあっさりと、魔女の首は切断された。漆黒の髪を撒き散らしつつ、白い生首が宙を舞う。そいつは、眉間に破邪の剣を突き刺したまま、にたりと笑った。

「リザインッ!! 負けを認めようッ!!
 しかしそなたはいずれ、死よりも恐ろしい苦痛に苛まれることになったぞ! 罪深きその魂を我が煉獄にて永遠に贖い続けるがいいッ!! きゃははははははははははははははははは!!」

 奇怪に哄笑する魔女の首は、とたんに黒く変色してヘドロのようになると、どぶ、と百の断片となって弾けた。それぞれが千の粒子となって拡散し、さらに無数の飛沫と化して――やがて森の空気に溶け込んで見えなくなった。

 後には、俺と、倒れ伏した兄が残された。

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