無限螺旋 - epilogue(1)

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 太陽はまもなく南中に至る。その輝きはあまりに無慈悲で、視界にあるすべてを白く染め上げていた。空だけが限りなく澄み渡り、もはや青を通り越して黒く晴れ上がっている。
 濃密な木立と荒れ果てた大地の境目に、女が一人、座って頬杖をついていた。
 紫のローブに身を包み、この炎天下に汗ひとつかかず、退屈そうに森の入り口を見つめている。浅黒い肌はもともとこの土地に住んでいる人間ではないことを示していた。喉の奥まで見えそうな大きなあくびをひとつすると、瞬きを二度。

 森の奥から、何かが近づいてくる気配がした。

 狩人風の出で立ちの青年が姿を現す。一人ではない。大柄な男に肩を貸している。その男の方はといえば、かろうじて歩いているものの意識は朦朧としている様子で、前が見えているかも怪しい。青年は女の前まで何とかたどり着くと、男をその場にゆっくりと座らせた。
 女が珍しいものを見る目つきで、目の前の二人を交互にじろじろと見比べた。

「ほぉ〜お。さすが兄弟だねぇ。体格は違うけど、顔の作りはよく似てるわ」

 青年はそれには答えず、しばらく肩で息をしていた。

「おやおや、お疲れかい? あんた、自分の兄貴に肩も貸せないほど体力ないわけぇ?」
「けっきょく、言うのかよ、それ……」
「ん? なに?」
「……なんでもない」

 青年はひとつ深呼吸すると、姿勢を正した。そして女に言う。

「領主様の命に従い、ここに魔女を成敗したことを報告する」

 そして、棒のようなものを女に押し付けるように渡した。

「これはもう不要だ。返しておく」

 それは柄に細かい装飾がされた細身の剣だった。かなりの年代物のようだが、貴族の屋敷の壁に飾ってあってもおかしくない優美な雰囲気を漂わせている。……ある一点を除いては。

「ぁあああああああ!! おまっ、これ、折れ曲がってるじゃないか!」
「杖代わりに使っていたら、曲がった」
「ちょぉぉぉおおおお! これ、どんだけ貴重な品か分かってんのか!? 杖に使ったって、自分の剣はどうしたよ! あのぶっとい剣は!?」
「ああ、魔女の首を落としたら、ボロボロに錆びて崩れてしまった。魔女の呪いって奴か?」

 女はフードを被った自分の頭を両手で左右から挟んで悶絶している。

「『魔女の呪いか?』じゃねぇぇえええ! 魔を狩るのに、武器にヤシ油も塗ってなかったのかぁぁぁあああああ!!??」
「ヤシ油だと? そんな話初めて聞いたぞ」

 青年は憮然として答え……しかし、こみ上げてくる何かを必死に真面目な顔して抑え込んでいるようだった。よく見ると、口の端がひくついている。女の所作が、よほどツボに入ったようだ。

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