無限螺旋 - epilogue(2)

前のページ/ 次のページ
 ひと通り騒いだあと、青年は担いできた男――彼の実の兄を早く休ませたいからと、最寄の町に向けてすぐに出発しようと言った。人一人を担ぎ、休みながら行くのでは、町に着く頃にはとっぷり日が暮れているだろう。
 はやる青年を押し留め、女は彼の兄の状態をひと通り検分した。体力を極度に消耗しているものの、差し当たって命に別状はないようだった。

「それにしても、強運だねぇ。あの魔女に戦いを挑んで勝っちまうとは」
「……それについては、礼を言っておく。お前がくれたあの剣がなかったら、どうなっていたか……」

 女は、は?と首を傾げると、こともなげに言った。

「ああこれね。でも、これには魔を払う力も、持ち主を強くする効果もないぞ。魔女に打ち克ったのは、あんた自身の力と運さ」

 えっ、と青年は聞き返す。

「だってお前、『この剣は魔女のまやかしを破る』みたいに言って渡したじゃないか」
「ああー、そんなことも言ったっけ? ありゃ言葉のあやだよ。だってそうでも言わないと、あんた持って行きそうになかったし」
「な……じゃあ、なんの意味もなかったのか? その剣には」
「いや、意味はあったさ」
「?? ……言ってることがわからん。結局なんだったんだ、その剣は」

 女は面倒くさそうに深い溜息をついた。

「しょうがないな……始めに説明したとき、あんた、途中までしか聞かなかったろ? 覚えてる? この剣に刻まれた言葉の意味」

 ひらひらと折れ曲がった剣を振り回す。ん、と青年は少し首をひねって、……瞬きを五回して、ようやく口を開いた。

「『真実』……だったか。他にも何か言ってたか」
「そう。もうひとつのほう。fhirinneは『真実』を意味するが、fahrennと読めば、これは『車輪』という意味になる」
「『車輪』……だと?」

 青年の表情を見て取り、女は意味深に口の端だけで笑った。そして、すっ……と声のトーンを落とした。

「占いにおいて『車輪』とは、『変遷する運命』を意味する単語だ」

前のページ/ 次のページ inserted by FC2 system