森の中、魔女と番人が話している。
「どうして、彼を逃がしてやったのです?
ここで彼がいた時間分、彼は、逃げ延びるだけの時間を過去へ遡ったのだ。
殺しておくべきだった。我々は、この時代に干渉するべきではない」
「番人よ。我々がどうして、この森を築いた科学者によって作られて、
森と共に過去へ送られたか、考えたことがありますか?」
「記憶を保存するためではないのか?」
「誰も見ることができない記憶など、何の価値がありましょうか?
我々が過去を遡るには、きっとこうして、森に迷い込んでくる、修羅の者たちに、
争いと苦しみの終焉を見せるためでなかったのかと思うのですよ。
そして、そうやって過去へ遡る旅をさせることで、
この森と我々を作った科学者は、あり得たはずの、よりよい未来を作ることを、
我々を通して過去の人々に託したのではないか、と思うのですよ」
森は再び静まり返った。雲が空を渡って行った。