無限螺旋 - epilogue(3)

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「変遷する、運命」

 青年の呟きを半ば無視するように、あるいは呪文を唱えるように……女は言葉をつむぐ。

「あんたたち兄弟は、その仲のよさゆえに魔女に目を付けられ、互いを思う気持ちを利用されて呪いをかけられた。その絆が深ければ深いほど強く作用する呪いを、だ。だが呪いがあまりに強かったがために、魔女にすら予測不能な結末を迎えた。
 他人が聞けば、きっとこう言うだろう。『絆の深さが、心の強さが魔女に勝ったんだ』と。だが、これはそんな話じゃあない。人と人との絆――因縁と言い換えてもいい――が引力となって波乱の物語を紡ぎだした、という話だ。だが物語の結末が変わったわけではない。なぜなら、運命が人に出会いをもたらすのではなく、出会いこそが運命を形づくる最初の一だからだ。
 ……つまり、あんたが強運の持ち主だったということさ」

 青年は、司祭の説法を聞くように、ただ黙って耳を傾けていた。よく理解はできない。……だが、言わんとすることは感じ取れるような気がした。

「この剣はな、魔を払ったりする力はない。だがもっと大きなものと『繋がっている』。人と人との結びつきや流転する因果、いわゆる『運命』というやつに。そして持ち主の意志に呼応して、その運命を少しだけ『加速』してやるんだ」
「『加速』……するだけ?」
「そうさ。別に不幸のどん底から幸福の絶頂に連れてってくれるわけじゃあない。もともと決められていた運命をちょっぴり先に進めることができるだけだ。まあ、たいていの人間がこれを聞くと『それじゃ意味がない』と言う。放っておいても同じ結果なら、努力なんて意味はないと。だが、そんなことを言うやつには、その先の未来にすらたどり着けない。そんなやつに、この剣は力を貸さない」

 そして、青年の瞳を覗き込むと、その深奥を見つめながら一言。

「あんたは違ったようだな」

 くひひ、と愉快そうに喉を鳴らした。

 強烈な西風が二人の間を駆け抜け、森をざわつかせる。木の葉が一枚、二枚と宙に舞った。それは絡み合うようにその軌跡を交差させ――やがて黒い空の彼方に消える。
 だがそれでも。森にはまだ無数の葉が茂っているのだ。物語が尽くされることも、ない。


「無限螺旋」了

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